プロジェクトに参加してくださる地域を探す作業は、まさに人と人のつながり、人脈のひとつひとつを辿りながらのものとなりました。まずは10年前の横浜と交換プロジェクトを実施してくださった陸前高田市へのアプローチを試みましたが、当時のプロジェクトは民間有志の支援団体が主催したもので、同団体を代表されていた方もすでに亡くなられていることがわかり、事務を担当された方も転職されていたりで、なかなかの連絡の糸口をつかめずにいました。
一方、過去に《ひかりの実》をご一緒したことがある地域、東北にゆかりのあるアート関係者、私の大学の同級生などに協力をいただき、プロジェクトの趣旨をご説明していくなかで、気仙沼市と南三陸町が参加を検討してくださることになりました。そして幾重もの縁を辿り、ようやく陸前高田の復興に取り組まれ、まちづくり会社を経営されている方、その方とともに復興のまちづくりを推進されている市の方に出会うことができ、10年ぶりに陸前高田とつながりをもつことができました。
また《ひかりの実》を送る側についても、横浜市・象の鼻テラスに加え、松戸市、横浜市緑区、そして2014年に開催した「道後オンセナート」で初めて《ひかりの実》に取り組んで以来、毎年3000個の《ひかりの実》を道後公園に展示している松山市道後温泉地区が参加してくださることが決定しました。他にも前向きに検討くださった地域は多くありました。年度を超えてからのアプローチになってしまったこもあり、当初予算がないことで泣く泣く参加を断念された地域もありました。もっと早くから企画し、参加を呼びかけていれば良かったのですが、それでも東北から3市町、全国から3市が参加するプロジェクトを形にすることができたのは大きな成果だったのではないかと思います。
まずは10月2日〜24日、象の鼻テラス・パークに約1500個の《ひかりの実》が実ります。そしてその一部を陸前高田市に運び、現地で制作した《ひかりの実》も加え、12月20日〜1月16日、約600個の《ひかりの実》が陸前高田市の中心、まちなか広場に展示されます。横浜市緑区がつくる《ひかりの実》は気仙沼市に、松戸市と松山市道後温泉地区がつくる《ひかりの実》は南三陸町に、それぞれ展示することとなっています。現在、それぞれの組み合わせによる交流プログラム(震災の記憶、復興への歩みを《ひかりの実》制作に参加する子供たちに伝えるレクチャーや、メッセージの交換など)も準備中で、まさに《ひかりの実》という作品が、被災から10年を迎える東北と全国を結びつつあります。
こうしたプロジェクトが実現できたのは、もちろん髙橋匡太さんが考案された《ひかりの実》という作品の持つ力の大きいと思います。参加型のアートプロジェクトには大変な手間暇がかかります。その手間暇をおしまず、作品を大切に育ててこられた髙橋さんの10年間の努力こそが、このプロジェクトの礎になっていることをまずは強調します。
そして同時に、プランナーの私としては、こうしたプロジェクトのあり方、組成プロセスこそが、これからの時代に求められる「ソーシャルプロジェクト」のモデルになのではないかとも考えています。「ハローサンリク」は、誰に頼まれたわけでもなく、私と髙橋匡太さんの思いだけでスタートさせたプロジェクトです。象の鼻テラスの事業費以外に資金のあてもなく、ただただ企画主旨を丁寧にお伝えし、参加地域の共感をいただくことで、実現に至ったプロジェクトです。決して派手な仕事ではありませんが、そのプロセスも含め、私にとっては非常に大きな意味をもつ仕事になりました。
アートの良さは何か。いつも自問自答するこの問いに、私はこのプロジェクトに取り組んだことで、またひとつ、大きなヒントを得ることができたと思っています。共感により、つながる力。10年前に開催した「アートのちから」という展覧会のタイトルの意味を、これからさらに、実践のなかで、深耕していきたいと考えています。