イベント産業におけるSDGs推進に向けて

守屋慎一郎

2020年6月、イベント学会の理事に就任しました。選挙で理事に選出いただけたのはたいへん名誉なことですが、正直いってここ数年、やや学会の活動が停滞していることも切実に感じており、どうせ理事をお受けするのであればということで、なかば立候補に近い形で、副事務局長も務めさせていただくことになりました。

学会活動の活性化に向けて

副事務局に就任以降、会長(代表理事)である中村利雄様(愛・地球博事務総長、全国中小企業振興機関協会会長)および事務局長、上代圭子様(東京国際大学)と連携し、さまざまな改革(というほどおおげさなものでもありませんが)に取り組んできました。昨年度は新型コロナ感染症の影響で本業が例年ほどに忙しくなく、3年勤めた大学の臨時講師も終了していたこともあり、十分な時間があったこともあります。しかしそれ以上に、これからの学会を持続可能なものとするために、必要と思われる学会活動の整理整頓を急ピッチに進めてきました。

最初に取り組んだのが、一昨年に実施予定だったホームページのリニューアルです。制作を依頼するクリエイターの方はすでに先代理事が決定されていたことから、そのクリエイターにお渡しするためのオリエンテーション資料の作成から着手しました。もちろんこの資料は、学会理事にリニューアルの内容を説明する資料ともなります。

リニューアル前のホームページを精査し、個別情報の必要性、重要性を検証し、学会員にとっても、これから学会への加入を検討される外部の方にとっても使いやすいホームページにするために。また学会の公式情報が確実にストックされると同時に、タイムリーな情報はいちいち外注しなくても自分で更新、発信できるようにするために。情報のクラスターを整理し、そこに入れ込む過去サイトの情報を体系的に整理する。こうした情報整理のノウハウは前職で携わっていたCI(コーポレート・アイデンティティ)や企業広報で学んだものですが、特にストック情報とフロー情報をわけて考える、それぞれの情報の質に応じて配置と更新方法を決めることは極めて重要です。いつかこのジャーナルでも詳しく説明できればと思いますが、自分自身のノウハウを生かすという意味では、良い作業から着手できたのではないかと思います。

同時進行で年に一度開催している研究大会の開催準備なども進めていたのですが、あわせて取り組んだのが学会運営の最低限のルールづくり、事務局の業務範囲や職掌範囲の明確化でした。私が事務局に入る前のイベント学会は良くも悪くも一部の理事と事務局の「阿吽」で運営されていたところがあり、そのためにキーマンであった先先代の事務局長が逝去されて以降、活動が滞ってしまってもいました。このままでは学会の活動が少しずつ先細ることは明らか。世代交代を進めるために。学会の活動を持続可能なものとするために。任意団体とはいえ最低限必要と思われるルールを考え、それを会則や運営会議規則の改定案として提案するほか、出納業務規定や個人情報保護方針など、新たに必要と思われる規定も検討し、提案してきました。さらにはクラウド型会計ソフトの導入と単式簿記への切り替え、各種事務書類の雛形整理など、日々の事務局業務の合理化にも取り組んできました。そしてこうした整理整頓、合理化に一定の目処がたってからは、新たな広報企画として「イベントロジー・オンライントーク」を開始するなど、新規の会員獲得に向けた「攻め」の取り組みにも着手しました。

2年前の理事期間のうちに

そして2020年度の集大成として、学会の総会、理事会、運営会議の運営ルールを変更するための理事会、総会を開催し、すべて承認をいただくとともに、2021年度の事業計画、事業予算を承認いただき、新年度がスタートしました。個人的には2020年度の活動は「自分がいなくなったとしても運営できる学会事務局」にするための基礎体力の回復期間と位置付けていました。そして新たな年度には、こうした整理のうえに新しい学会の活動をスタートさせたいと考えていました。その新しい活動のシンボルとして考えたのがSDGsです。

個人的には、自分が専門とする芸術文化分野における「コロナ禍」の影響を考えるうち、もちろんその「被害」の甚大さは明らかなのですが、それと同時に、果たしてコロナは天災なのだろうか、もともと(芸術文化分野を含む)イベント産業が抱えていた各種の問題を露出させただけなのではないか、ということも考えていました。例えば大きな話題となった補償問題にしても、芸術文化を支える「人材」、特にフリーランスに対し十分な補償がなされなかったという対処の問題もあるのですが、それ以上に、そもそも芸術文化産業が持っていた雇用の脆弱性、フリーランスに依存する業界全体の産業構造の問題もあわせて考えるべきなのではないか。

時を同じくして、SDGsに関するご相談を数多く受けてもいました。「誰一人取り残さない」。その理念と実践を学ぶうち、この理念はイベント産業に関わる私たち自身を守るものでもあるのではないか。SDGsの普及に貢献するイベントを考案するだけでなく、イベント産業そのものをSDGs化していく必要性があるのではないかと考えるようになりました。

イベント産業をSDGs化する

もともとイベント学会にはSDGsに深く関与している理事、会員が多くいらっしゃいます。こうした人たちに上記の課題認識を伝え、賛同いただくうち、イベント産業のSDGs化に向けた研究会の必要性を確信し、信時正人イベント学会理事(横浜SDGsデザインセンター理事長ほか)を発起人代表として「イベント産業におけるSDGs推進研究会」を設立するに至りました。

活動はまだ始まったばかりですが、初回研究会には業界団体である日本イベント産業振興協会、また複数の大手広告代理店にもご参加いただき、産学連携で研究を進めていくための端緒は掴めたのではないかと思っています。今後は、研究会への参加者を拡大しつつ、資材のリサイクル、企画運営におけるジェンダー平等など、イベントの企画制作過程における優れた取り組み「グッドプラクティス」の収集などを進めていきたいと考えています。

イベント産業をSDGs化させることは、ソーシャルグッドにつながるだけでなく、この業界で働くひとりひとりの未来を、人生を、健やかに、豊かにするものだと思っています。ぜひ多くの人に参加いただきたいと思っています。詳細は以下リンク参照のうえ、ご興味ある方は問い合わせフォーム等で学会事務局にお問い合わせください。もちろん本ホームページのコンタクトから連絡をいただいても構いません。よろしくお願いいたします。

イベント産業におけるSDGs推進研究会、第1回公開研究会開催のお知らせ