ハローサンリクー東日本大震災から10年「ひかりの実」特別プログラムー(2)

守屋慎一郎

「ひかりの実」とは、アーティスト・髙橋匡太が考案した参加型のアートプロジェクトです。果物を育てるときに使われる「果実袋」に参加者が笑顔を描き、LED電球を詰めることで色とりどりの笑顔が夜景を彩ります。2011年10月に開催された「スマートイルミネーション横浜」で初発表され、これまでに横浜や全国各地で10万人以上が参加しました。2021年からは、文部科学省検定済教科書(開隆堂出版/ずがこうさく1・2)にも掲載されています。

2011年、「スマートイルミネーション横浜」で展示された「ひかりの実」を見た東北の関係者から連絡をいただき、陸前高田市と横浜で《ひかりの実》の交換プロジェクトが展開されました。支援団体の方は、仮設住宅に暮らす人たちが、例年まちで実施していたクリスマスイルミネーションが実現できないことを寂しがっていることをご存知でした。そして仮設住宅に光を灯すのに、《ひかりの実》がぴったりなのではないかと考えてくださったようです。トントン拍子で話は進み、クリスマスにあわせ、横浜市の小学生たちが笑顔とメッセージを描いた500個の《ひかりの実》を陸前高田市の仮設住宅に届けること、そして年末年始には、陸前高田市の子どもたちが描いた実も加え、約3000個の《ひかりの実》を山下公園に展示することが決定しました。

仮設住宅を訪れたのは2011年12月のクリスマス。そのときにみた陸前高田の風景を、私は一生忘れないでしょう。まだ片付けさえ終わらない瓦礫。瓦礫のほかになにもないまち。言葉にならない感情をもちながら、でもすれ違う地元の、通学途中の子どもたちの笑顔がとても明るかったことを覚えています。人間の儚さと強さ。そんなことを思いながら。誰もが言うように、むしろこちらが力をもらいながら、陸前高田でのワークショップは進行しました。

そして山下公園。あまり知られていないと思いますが、実は山下公園は、関東大震災で大量に発生した瓦礫を埋め立てて造成された公園です。巨大な地震の記憶を受け継ぐ公園に、被災地の子供達が描いた笑顔が実る。その様子は、地元紙、ネットメディアなどで大きく報道されたほか、NHKの「ゆく年、くる年」でも放映されるなど、大きな反響を呼びました。私にとって、また作品を考案した髙橋匡太氏にとって、このプロジェクトは忘れられない貴重な体験となりました。

「ハローサンリク」は、東日本大震災から10年、そして《ひかりの実》の誕生から10年となるこのタイミングで、震災の記憶の風化を防ぎ、語り継いでいくために、また笑顔で暮らせることの尊さを分かち合うために企画しました。《ひかりの実》発祥の地である横浜市だけでなく、縁あって《ひかりの実》の制作を行っている地域にも参加を呼びかけ、被災から10年を迎える東北地方に《ひかりの実》を送ろう。東北と交流しよう。復興に向かいつつある東北に出会おう。そんなことをイメージしながら、《ひかりの実》の制作に取り組んでいる(取り組んだことがある)自治体等に、そして東北地方のみなさまに、アプローチを開始しました。(続く)