国際園芸博覧会のディレクションにあたって

守屋慎一郎

先日ニュースにて公開しましたとおり、2023年4月より、2027年国際園芸博覧会の催事・広報ディレクターを拝命し、協会のディレクターとして活動することとなりました。これを受け、私が2012年、2022年のオランダ・フロリアードに学び、日本で開催される国際園芸博でも取り入れたいと思っていることの一部を書き留めていきたいと思います。

1)そもそも国際園芸博覧会とは
国際園芸博覧会は、AIPH(国際園芸家協会)の認定により開催されるもので「国際的なレベルで園芸生産者の利益を図り、園芸技術の向上を図る」ことを目的としています。種別としては各国代表の参加による国際的園芸博覧会(A1,A2クラス)と国際性のある国内園芸博覧会(B1,B2クラス)があり、オランダが10年に一度開催しているフロリアードはA1クラス、最大規模の園芸博覧会となります。日本がA1クラスの園芸博を開催したのは過去1度、90年大阪の「国際花と緑の博覧会」がこれに該当します。なおA1クラスの園芸博はBIEの登録博にも認定される必要があり、今回、横浜で開催される「2027年国際園芸博覧会」もA1国際園芸博覧会であると同時に、BIE登録博の認定を受けています。
BIEによる国際博覧会とAIPHによる国際園芸博覧会の最大の違いは、BIEの国際博覧会が「条約」に基づいて開催される国家主体のイベントであるのに対し、AIPHの国際園芸博覧会はあくまでも園芸団体が主体となるイベントであることにあります。こうした意味で、AIPHの国際園芸博覧会はBIEの国際博覧会よりもIOCのオリンピックに近いという言い方もできるかもしれません。伝統的な園芸博はまさに園芸のオリンピック(競技)なのであり、庭園のデザイン、花卉品種などの種目で参加各国の代表が競いあう、多様なコンペティションこそが園芸博の主役となっています。
ちなみに日本でAIPHに加入しているのは社団法人日本造園建設業協会です。もちろんオリンピックがそうであるように国際園芸博覧会を招致、開催する都市および国は、このコンペティションを円滑に推進する責務を有しており、今回の2027年国際園芸博覧会においては、所管官庁(国交省よおび農水省)、開催県・市、経済団体および関連団体などで構成される公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会が設立され、この法人が博覧会事業(会場の建設、運営、事業収支、そして開催意義の達成)に対する責任を持つこととなっています。

2)国際園芸博覧会の新たな兆候
上記のとおり、国際園芸博覧会はいわば園芸家のオリンピックとしての性格を有しているわけですが、近年、AIPHは国際園芸博覧会の意義を園芸産業の発展に限定することなく、グリーンシティの実現、国際的なグリーンイニシアチブ、ムーブメントの発展に置く姿勢を明確にしています。これはBIEの国際博覧会が産業革命を契機とした殖産興業のための見本市として出発しつつ、現在では「地球的課題の解決のための対話と交流の場」と位置づけなおされていることと符号しており、現代の国際園芸博覧会もまた、さまざまな地球的課題、とりわけ都市課題や環境、食糧等の課題に対し、緑の視点から、その解決のための叡智を結集する国際的な対話と交流の事業へと発展しつつあります。私が2012年、2022年のフロリアードで感じたことは、まさにこの国際的な対話と交流の豊かさと可能性、そして教育普及プログラムの充実であり、成熟社会における国際イベントの意義と役割という意味からも、私はAIPHが打ち出しているビジョンに強い共感を持っています。

3)成熟社会の国際園芸博覧会を目指して
書き始めてみるとお伝えしたいことが予想以上に多く長文になりましたので、2012、2022のフロリアード、あるいは2018年に台湾・台中市が開催した「台中フローラ」における展示、催事等の事例紹介は第2回以降に譲るとして、今回はまず国際園芸博覧会の成り立ちと兆候、そしてその兆候に私自身が強いシンパシーを抱いていることまでをお伝えしました。だからこそ私は(会社員時代含めこれまでは「来るものは拒まず、去るものは追わず」、自分から積極的な「営業」はしないスタンスを貫いていたにも関わらず)横浜の園芸博には参加したいとあちらこちらで公言していたのでして、幾多の関係者の応援をいただき、それが実現したことに大きな喜びを感じていることもまた、初回にお伝えしておきたいと思います。もちろんその喜びを遥かに上回る責任を感じていることもまた。
私は今回の2027年国際園芸博覧会を、成熟社会にふさわしい国際イベントに、本当の意味でいまこの時代に開催する意義のあるイベントとするために、全力を尽くすつもりです。上にも触れたとおり事業としての博覧会に責任を持つのは実施主体たる2027年日本国際園芸博覧会協会です。その協会でディレクターを務めることの責任の重さを胸に。また一方で、あくまでも楽しく愉快に、自分らしく、この仕事に取り組んでいきたいと思っております。

多忙を極めており次回がいつになるか確約できませんが。できればGW中に第2回として「フロリアードの展示、催事例」を、第3回として「なぜ現代社会に園芸博は必要なのか」をアップしたいと思っております。今後ともご支援、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。