国際園芸博覧会のディレクションにあたってPart2(2012フェンロ国際園芸博覧会レポート)

守屋慎一郎

大変お待たせいたしました。2027年国際園芸博覧会の広報・催事ディレクターを拝命したことを受けてのコラム第2弾です。今回は私が実際に視察することができたオランダのフロリアードについてご紹介いたします。

オランダは言わずと知れた世界を代表する園芸国家。特に花卉栽培が盛んなことはみなさまもご存知かと思います。オランダには園芸博をオーガナイズしている国際園芸家協会(AIPH)の本部もあり、10年に一度、今回横浜で開催されるものと同様、最高クラスであるA1の国際園芸博覧会(フロリアード)を開催しています。私が実際に見学することができたのは、2012年のフェンロ、2022年のアルメーレのフロリアードとなります。

オランダが開催するフロリアードの最大の特徴は(特にフェンロ以降ということだと思いますが)グリーンシティ・イニシアチブ、すなわち花緑の力でさまざまな社会課題を解決する都市(あるいは社会)のプレゼンテーションを中心に構成されていることにあります。そしてどちらのフロリアードも、博覧会後の都市(地域)ビジョンが明確にあり、そのビジョン実現のために園芸博が戦略的に活用されていることにも大きな特徴があります。

2012年にフロリアードが開催されたフェンロはドイツ国境近く、オランダでも有数の花卉園芸産地です。フェンロでのフロリアードはここにヨーロッパを代表する花卉園芸産業のコンベンション、流通拠点を形成するという目標(都市計画)のもとに開催されていました。園芸産業の価値に対する認識を高め、オランダの園芸産業の国際競争力を高めること。それがフェンローの大きな戦略だったと思います。

写真は会場を見渡すロープウェイ(ゴンドラ)から撮影した会場風景です。タワーは博覧会のゲートとなっており、博覧会後にはコンベンションタウンの中核となるオフィス機能などが入る予定になっていたと思います。

こちらはオランダが得意とする巨大温室の内観。博覧会時は公式参加者(国や国際機関)、一般参加者(企業等)の屋内出展で活用されていますが、博覧会後はここで花卉関連のコンベンションを積極的に開催していく計画になっているのだと思います。

もうひとつ、フェンロで初めてフロリアードを体験してわかったことは、オランダはフロリアードを重要な「教育」の機会と捉えているということです。

写真はこのとき初めてみたウィル・ベッカーによる蔦を使ったインスタレーション。造形のユニークさもさることながら、この作品がそのまま環境教育の装置として機能していることにとても感銘を受けました。

こちらは食をテーマとするゾーン。テーマ館(だったと思いますが記憶違いでしたらすみません)のプレゼンテーションも見事ですが、より印象的だったのはこちら。

先に述べたとおりフェンロの大きな戦略のひとつは園芸産業の価値に対する認識を高めることだったと思いますが、その戦略に基づき、博覧会は園芸×○○というテーマ=ソーンで構成されていました。○○に入るのは「環境」「教育」「健康」「食料」など。これらすべてのテーマ=ゾーンにおいて、教育が重視されており、展示コンテンツのなかに参加体験型、ワークショップ型の教育プログラムがふんだんに取り入れられているのです。

上はちょうど季節を迎えていたホワイトアスパラバスの収穫体験。こういう農作業の実体験が組み込まれていることにもとても好感を持ちました。

私の専門領域に近いところではアートの活用も興味深かったです。先に紹介したウィル・ベッカーのインスタレーションもそうですが、全体としてとてもレベルが高く、センスも良い。

おそらく上の写真はどちらもコンペティション(園芸博独特の仕組みで、公式・一般参加者がさまざまなジャンルで技術等を競いあうもの)の出品作品だと思いますが、テーマの設定も良いのでしょう、出品作品のレベルがとても高いことが印象に残りました。

そして何より思ったのが時間消費の豊かさです。私はこれまでもBIEの博覧会には多く関係させてもらっており、例えば2010年の上海万博なども視察していたのですが、園芸博覧会の空気感は、BIE型の博覧会とはまったく異なるものでした。

上の写真。オランダであっても園芸博の主な客層は高齢者になるわけですが、とにかく時間の過ごし方が穏やかなのです。人気パビリオンのために何時間も並ぶといった風景はオランダの園芸博には見られません。そのかわり、豊かな花と緑があり、みなが思い思いに好きな時間を過ごしているのです。

上は私が長くFacebookのメイン写真に使っているもので、このときに撮った写真で一番気に入っているカットです。どうですこののんびり具合!!笑

私は横浜が「幸せを創る明日の風景」をテーマにしたときいて、すぐにこの写真のことを思い出しました。芝生に赤いデッキチェア。ただそれだけ。ただそれだけの風景がこんなにも幸せであること。私はこの風景こそが園芸博の最大のポイントだと思っています。

長くなってしまったので2022年アルメーレのレポートは別記事にします。