国際園芸博覧会のディレクションにあたってPart3(2022アルメーレ国際園芸博覧会レポート)

守屋慎一郎

引き続きオランダが開催する国際園芸博覧会(フロリアード)のレポートです。今回は2022年、直近で開催されたアルメーレの国際園芸博覧会をご紹介します。

2012年のフェンロが花卉園芸産地で開催されたことに対し、アルメーレは都市近郊、オランダの首都であるアムステルダムから電車で30分程度、日本でいえば多摩ニュータウンのような場所で開催された園芸博覧会となります。オランダは慢性的な住宅不足の状態にあり、この博覧会では、首都近郊に新たな住宅地の開発を行うことが博覧会の大きな目標(都市ビジョン)となっていました。これを受け、アルメーレの博覧会は住宅地の開発に向けた都市基盤を整備し、その基盤を利用して開催された博覧会となっています。

上はアルメーレ国際園芸博覧会の会場マップです。これを見ればわかるとおり、会場全体が住宅区画として整備された新都市となっており、その区画を利用しながら公式参加(国や国際機関の出展)、一般参加(オランダ国内の園芸関連産業の出展)などが導入されています。

さらに特徴的なことが、博覧会後にも残る公共施設が博覧会時にすでに稼働していることです。

写真はAeres University of Applied Sciences Almere (応用科学大学)の新キャンパス。園芸博会期中はその一部がフレヴォラント州のフード フォーラム パビリオンとして利用されていました。学生や研究者だけでなく、アルメレとその周辺の住民が、未来の都市生活について研究する教育機関を博覧会会期中に先行して稼働させる画期的取り組みとなっています。

もうひとつ博覧会会期中に稼働していた公共施設が高齢者向け住宅です。こちらの住居に入居している高齢者の方は博覧会の運営ボランティアなどにも積極的に参加されていたようで。日本だと博覧会は日常と切り離された時空間(一種のテーマパーク)と考えがちですが、ここでは緑と共存する未来の暮らしが博覧会と地続きで始まっているのです。

住宅用の区画整理をベースとしている分、博覧会としては会場の風景が単調になりがちなのでは、というのが実際に見る前の予習段階での不安でした。しかしアルメーレの博覧会は、干拓当時に植栽された高木を残しつつ、区画と道路の間に花壇を設けることなどで、意外なほど豊かな表情(都市景観)を作り上げていました。

区画に出展されている公式出展も印象的なものが多かったです。この公式出展の充実感はフェンロを大きく上回っていたと思います。

写真はドイツ館。さすがです。理念も、デザインも、教育コンテンツも、ついでにいえばレストランも素晴らしかったです。

こちらは中国館。中国はA1クラスの園芸博の開催実績があり、今後も開催を狙っていると聞きます。だからなのか。園芸博の出展には気合が入っており、今回も最大規模の出展を行なっていました。竹をテーマにした展示になっており、庭園のデザインも素晴らしかったと思います。

こちらはUAE。砂漠でいかに植物を育てるかをテーマにした展示で、こちらもBIEドバイ万博を開催した経験値が生きたのか、デザイン的にも素晴らしい内容になっていました。

開催地出展では地元アルメーレ市の出展が素晴らしかったです。写真でご覧いただいているとおり、イラストレーションと植物の組み合わせがとてもセンス良く、ノンバーバルでも十分に楽しめる内容になっていました。

アートプログラムのフェンロに続き素晴らしい内容でした。

シンボルとなっていた彫刻作品。この博覧会では全体として絶滅危惧種であるミツバチが重要なモチーフとなっており、このシンボル作品も鉄屑でつくったミツバチで構成されています。作家はFlorentijn Hofman 。

こちらは私が一番好きだった作品「Roots」。アルメーレは移民が多い都市とのことでして、アルメーレ市民ひとりひとりが、自らのルーツを語ったインタビューを森の中にインスタレーションしています。作家はSuburbia in de buurt。

もうひとつご紹介したいのがこちら。これはアルメーレの都市規模が必要とする森林の面積を示すフットプリントで、必要とされる森の範囲、その外周部に写真のような手形が残されています。こちらは地元の子供達とのワークショップで作られた作品とのことです。

このようにアートプログラムはそれぞれが環境教育の装置となっていること、これはフェンロと同様、オランダのフロリアードの大きな特徴だと思います。

最後に紹介したいのがユートピアゾーンのアグロフォレストリーです。アグロフォレストリーとは、簡単に言えば不耕栽培。森を伐採して農地をつくるのではなく、森を残しながら、地域が必要とする最小限の農作物をつくることを言います。

こちらはフェンロの芝生+デッキチェアの写真と同様、今回アルメーレで撮影した写真のなかの私の一番のお気に入りです。拙い英語で話しかけたのですが、このとおり、満面の笑顔でこの農法の素晴らしさを語ってくれました。まさに最&高です。

アルメーレの園芸博について、来場者数が少なかったことから厳しい評価をされることが多いと思います。なかでも花の量が少ないことに関する批判はごもっともで、園芸博の主役であるはずの花の魅力は確かに弱かったと思います。

しかし私はこの園芸博をとても高く評価しています。少なくともBIE型の博覧会のようなエンタメ要素が少ないという批判に対しては、私はまったく同意していません。

なぜなら、入場者数は確かに重要で、事業として赤字になったことを「失敗」と評価することは当然としても、この園芸博によって、当初の目標である住宅の開発、それもグリーン・イニシアチブに基づいた都市開発のプレゼンテーションとしては十分な成果をあげていると考えるからです(もちろんコロナという誰にも予見できなった事情があることも考慮すべきかと思います)。

私を含め事業としての園芸博の成功を目指す人間、特にディレクターとしての責務をいただいた人間は間違っても目標来場者数や事業収支の達成を軽視してはいけませんが、それ以上に大事なことは、事業を通してどのような都市ビジョン、地域ビジョンを描くかだと思っています。

そうした意味で、アルメーレの国際園芸博覧会は極めて明快な意義と成果を持った博覧会だったと思います。